模擬国連委員会TICADプロジェクト-紛争とアフリカ-

Japan Model United Nations Society TICAD Project
模擬国連委員会TICADプロジェクト

「紛争とアフリカ〜平和の定着〜」

イベント報告

セミナーの際にスタッフが行なったメモを共有致します。内容に関してセミナーでの講演を完全に反映出来ていない部分もございます。参考としてご覧頂けましたら幸いです。

記録:杉野真実
監修:鈴木洋一

<アフリカの紛争> 遠藤 貢 氏(東京大学教授) 

~なぜアフリカに関心をおくか~。IMGP0446.JPG 
① なぜアフリカで紛争が起こるのか?
② 紛争の特徴はどこにあるのか?
③ 90年代の紛争とは?
 
① なぜアフリカで紛争が起こるのか?
→国境が西欧諸国によって人工的に引かれたため多くの民族・部族が細かく分布している。
しかし、 この理由だけではない。
→植民地時代の統制に問題があった
Ex)ルワンダ紛争
 身体的、能力的面でIDカードを作り、フツ族とツチ族に分けて、部族を認識させ、植民地下で宗主国側(ドイツ)が統制しやすいように、振り分けられた。そうすることによって対立を助長させた。
 その結果、虐殺時に当時のIDカードにはツチもしくはフツと書かれており、区別された。
 
つまり、民族対立が必ずしも紛争を引き起こしている最大要因ではない。
むしろ政治的要因により、人々が指導者に扇動されて憎しみ合い、対立に至るケースが多い。
Ex)ケニアの大統領選挙
当選したキマキ大統領と、それに反する野党との間で対立が起きていたが、本当の所、命を落としていたのは、キマキ大統領側に政策的に優遇されていた多数派のカレン人であった。
→政治的優遇を受けているという理由から、他の部族から憎まれ、妬まれた。
 
また、目に見えない構造が歴史的に作られてきたことによる、いわゆる構造的要因も考えられる。
 Ex)アフリカ諸国
*若者達は不平等性を感じている。
 
結果的に見れば、紛争の要因の側面に民族/部族対立もあるが、アフリカの人々を対立させるような政策や構造のような、『要因』が作られてしまった事が要因。
 
② 紛争の特徴はどこにあるのか?
1.反政府組織
Ex)ウガンダ内戦
ムセベニ大統領
 
2.解放組織
Ex)ルワンダ内戦
 当時の大統領が乗っていた飛行機を墜落させたのは現在のカビラ大統領が所属していたルワンダ愛国戦線が関与していた疑いが大きい。この大統領機墜落をきっかけによってフツ族とツチ族の殺し合いが始まった。
 
3.分離独立 
 
③ 90年代の紛争とは?
従来の政府と軍閥対立ではなく、軍閥内での対立
→先進国で多額の資金となる天然資源の所有をめぐって
 
Ex)コンゴ民主主義共和国
 国の資源であるダイヤモンドなどを先進国に高値で売り、それで出た収益で軍備をまかなっている。→天然資源=軍事費
その他のアフリカ諸国でも、精密機器を製造する上で必要不可欠なコモンメタル(レアメタル)を先進国に売り出して軍事費に当てている所が多い。
 
軍閥内での対立は市民対立も招きやすいので、多くの民がその国にいられなくなってしまう状況が引き起こされる。IMGP0448.JPG 
→難民の発生 
 国内に逃げ場を失い国境を越えた難民達は国境付近で野宿するが、
 その場には軍事力を持ったまま対立勢力から逃れるために『難民』となっている軍人も存在。
→暴力の発生
 しかし、法によって暴力とされ、被疑者が罰せられる事でも、難民キャンプでは法がなく、そしてあったとしても機能していない。
→報復の連鎖が発生
 
~紛争の形はどのように変化していったか~
1990年代以降、つまり冷戦中に、
ソ連の科学者であるカラシニコフ氏によって「AK47」という小型銃器が発明された。
AK47・・・殺傷能力が高く、子どもにも簡単に使いこなすことが出来る。
ここから、子ども兵が生まれる要因に!
つまり、子どもを戦場に動員が可能となる。(子どもが洗脳しやすい事も子ども兵を促進した。)

子どもが戦場に駆り出される。

働き手である子どもがいなくなり、農業も衰退。

また、こうした中で貧困から逃れようと、(食事などの面で)生活が安定している軍閥に参加した方が生存は保障される。
・・・という流れが出来上がってしまい、生活向上を求める民が軍閥に所属したために、残された一般市民との間にまた対立が生まれる。
 
PKO(平和維持活動)は時にその紛争に介入したがために紛争の主体となってしまうことがある。
Ex)ソマリア
  映画「ブラックホークダウン」
 国連は『平和執行部隊』という名のもとに現地入りしたために戦いは激化した。
Ex)リベリア
 ECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)は介入したがために紛争の一つの主体へと変わってしまった。
Ex)映画「ブラッドダイヤモンド」
 民間団体が介入したために争いが生じた。
 
紛争は戦争当事者からすると、とても好都合な理由になっている。
つまり戦争状況の持続こそが目的になっている事がある。
 
1990年代後半
多くのアフリカの紛争が解決出来なかった反省から、積極的にアフリカ問題に取り組もうとする姿勢が見られるようになってきた。
→PKO(平和維持活動)→NGOによる支援→人道的行動がうまれた。
Ex)シエラレオネ
 紛争が終わったあとの市民のケアなど、紛争終結後の平和構築事業
 
しかし、この平和構築に関わることによって支援する側の国の安全保障に支障をきたすことも在り得るとの懸念もある。
 
~植民地独立について~
 
植民地の独立とは、宗主国が統制を放り出しただけの構造統制能力ゼロ・政府機能ゼロの状態にあること。
            ↑
しかし、そんな状況でも、国内統治能力が欠けていても
国外からの“国家”としての認識があれば一つの国家であることに間違いはなく、簡単に“国家”という枠組みを外すわけにはいかない。
→国家は簡単にはなくすことが出来ない
 
~現代の課題~
軍閥の存在が国家への支援を難しくさせている。
Ex)ソマリア
 海賊の存在
 
~TICADについて~
日本のODAは右肩下がりで、TICADで大きな成果が得られることは期待出来ない。
しかし、日本は本年、平和構築委員会で議長国となっているので、日本の指針を上手く示すことでチャンスが広まる可能性はある。
 
≪質疑応答≫
質問
① 宗主国にとって植民地を維持するメリットとは?また、民族形成のプロセスとは?
② 先進国がアフリカの植民地からいきなり手を離したのはなぜか?
③ アフリカ諸国のPKOの評価は?
④ 日本はアフリカに対してどう協力していくべきか?
⑤ 紛争がビジネス化している現代において、その主体に対する規制は?
⑥ アフリカにおける宗教と紛争の関連とは?
⑦ エネルギーに関するアフリカの発展性と紛争の関連は?
教授による答え
① 間接統治で、首長というアフリカ人リーダーを置くことによって植民地経営のコストダウン出来た。
いかに支配に抵抗させないかに重点を置き、そのために内部での対立を助長させるためにグループ分けした。
② 民主主義による政党選挙の結果。
③ AU(アフリカ連合)だけでは不可能になってきていて、ダルフールでのPKOでは欧州の部隊の派遣も有効だろう。
④ 防衛省や自衛隊が関心を持っているが、そこからの一歩が踏み出せていない。
⑤ 傭兵に対する規制、国際的なものはあるが、政府側についている者に対して国際法によって規制するのは難しい。日本でも公的規制だけでは取り締まることが出来ない物に対してのビジネスチャンスが生まれてしまっている。
⑥ “表向き宗教対立”が多いのが実情。本当の要因は他にある、ということ。
⑦ アフリカは今平均6%超の経済成長。しかし、石油原油価格の高騰により、“リソーストラップ”が起きてしまっている。
 
 

<子ども兵>下村 靖樹 氏(フリージャーナリスト)  

~子ども兵についての諸条約について~IMGP0457.JPG 
 
~子ども兵が生まれてしまっている地域の現状~
1986年 ムセベニがキトオケ将軍から、大統領の座を奪ったことにより、複雑な構図が出来上がってしまった。
 
政府 対 キトオケ将軍を支持するアチョリ人から成る反政府組織

ウガンダ  対   スーダン     

  • 援助↓   援助↓

反スーダン政府組織  反ウガンダ政府組織“LRA”・・アチョリ人
 
その中で生まれたのが“子ども兵”だった。
 
~子ども兵の実態~
現在ウガンダにでは万人近い子どもが誘拐され、子ども兵となっている。
 
1. ゲリラは子ども達をうまく操るために連帯責任を負わせている。
Ex)日本の江戸時代の5人組
2. 子ども兵は小さく動きやすいため、ブッシュ(茂み)内を1番先に通らせて、地雷がないかなどを調査させ、戦闘では1番激しい最前線においている。
3. ゲリラは移動し続けるので、素足の子ども達はすぐに傷を負い、そこから菌が入り、病気になることもしばしばだが、ゲリラはそうした子ども達のケアはしない。
4. ゲリラは15歳以下の子どもしか使わない。
  →15歳以上の子どもは自我が芽生えて」きて、操りにくいから。
  →15歳以上の子どもを見つけると、耳・鼻・口などを切り取る“リップカットをして、15歳以上の子どもに対してゲリラの脅威を見せ付けている。
5. 女の子は性的搾取を受け、感染症や望まない妊娠・出産をする。命を落とすことも多い。
ただレイプのことや、そうして生まれた赤ん坊の父親のことは思い出したくなくても、子どもは愛らしいと思う。
 
~Child Protection Unit~
Child Protection Unit・・・誘拐されて子ども兵にされた子ども達を救出して保護している。
→子ども達を救出する作戦は政府軍とゲリラの戦いで政府軍が勝って、ちりぢりに逃げるゲリラの中から子ども兵達を保護する方法が1番多い。
 しかし、政府軍が勝つためにはゲリラの最前線にいる子ども兵と戦って勝つということになる。
→目の前で家族・友人が死んでいった/誘拐された・戦場に立った恐怖
 によりトラウマに苦しむ子ども達のリハビリを行っている。
 
→保護されてもうつろな目をする子ども兵
 
こうした中でアフリカ諸国には昔からの伝統で呪術が盛んな所もあり、1度誘拐され怪我をした子どもは呪われていると考えられ、家に入れてもらえなくなっている子どももいる。
そうした結果、ゲリラにしか居場所がなく、戻ってしまう子どももいる。
 
 
≪質疑応答≫
質問
① 国際法は機能しているのか?
② 看護などの医療は充実しているか?HIV問題はどうか?
③ なぜ子どもだけが誘拐されて子ども兵となってしまうのか?
④ 職業訓練はどうか?
⑤ ウガンダで子ども兵を作らせないために社会的に出来ることは?
⑥ 子ども兵に対して実際どのような支援が行われているのか?
答え
① 全然機能していない。しかし、一方でゲリラの周りを支援する周辺国に対してはいくらかの抑止力としてはたらいている。
② あまり看護が充実しているとは言えない。
HIVには南北に差がある。データもあるが、そのデータの信憑性は低い。
③ 子どもは本当に扇動しやすい。そのために、一度子ども兵になった子どもは感情をなくされてしまうこともある。
④ リハビリ(訓練)が終わったら、政府軍に入れられる場合もある。居場所のない子どもはまたゲリラに戻ってしまうこともある。
⑤ ⑥ 緊急援助が復興援助に変わってきた。一時的心の平安があったとしても、南北の信頼関係がないために長期的平和はまだ遠い。
 
 

<難民>堀越 芳乃 氏(難民を助ける会) 

~難民を助ける会について~ 特定非営利活動法人IMGP0471.JPG 
1. アンゴラ・ザンビア・スーダン・タジキスタン・アフガニスタン・パキスタン・ミャンマー・カンボジア・ラオスの9カ国で活動
 
2. 政治・宗教・思想に中立な団体
3. 今年で活動29年目。これまでに50カ国以上で活動
4. 障害者自立支援、地雷対策、緊急支援の3本柱 
 
~難民を助ける会の活動~
町・コミュニテイーが弱い→誘拐が起こる→子ども兵が生まれる
この悪循環を変えなくてはいけない。
 
(途上国での活動についてはパワーポイントで説明。)
① 井戸作り
② 衛生教育ボランテイア
③ マラリア予防活動
④ 地雷・不発弾 撤去
 
これらの活動で配布するために作成したパンフレットなどは、南北で宗教や民族に違いがある場合、それぞれの地域に適応したバージョンを変えて作成するなど工夫した。
 
~スーダン支援で重要になること~
① 人材育成
② メンテナンス・技術を伝授
③ Capacity Development
 
~難民を助ける会の考える“平和”とは~
Health
Education
Infrastructure
Water
Agriculture/ Work for Income
 
これが揃うことだが、それが難しいのが現状。
 
 
 
~より効果的な平和構築のために~
Top down と bottom up 
Top・・・国家・国の開発援助機関・国連
Bottom・・国際NGO・その国のNGO・地方政府・住民
→この両方のアプローチが平和構築には必要不可欠
 
~NGOが得意とする分野・活動~
1. 迅速な行動
2. 特定の地域やコミュニケーションのニーズに応える(柔軟な対応が出来る)
3. 住民とともに活動を実施
4. 顔が見える援助
5. 寄付の多くが直接事業費に回る
6. 政治に左右されにくい
 
~今学生に出来ること~
1. 研究
2. パネル展・発表をする→多くの人に知らせる
3. ボランテイア活動への参加
4. 募金活動
 
~NGOとどう接するか~
1. 活動内容・ホームページなどの雰囲気など自分に合うところを選ぶ
2. ホームページ上での会計報告などを見てaccountability をチェックする
3. コンタクトをとる時にはアポイントをとる
4. 自分で調べられることは調べてから聞く
 
 

滝沢 三郎 氏(UNHCR駐日代表) 

~某町内会重大事件~ 国際社会が町内会であったらIMGP0490.JPG 
・ 町内会(国際社会)
・ 垣根(国境)
・ 町内会の取り決め(国際法・条約)
 
・ 隣家との争い(境界争い、町内会の派閥争い)
・ 親による家庭内暴力(酒、浪費、ギャンブル)
・ 児童虐待(弱い子どもをいじめる、差別、DV)
 
→町内会は家庭に介入すべきか、そもそもできるか、できるとしていかに?警察は?児童相談所は?
→国際的には有効な手段がない。「私の家のことに口を出さないで」(内政不干渉)が主流
 
 
紛争の3つの主な原因
1. 国際間の紛争
植民地解放戦争や東西冷戦時の代理戦争。
2 国内の紛争
冷戦後の1990年代に増える
分離独立運動(民族や宗教)、資源を巡る争い、平和的解決法画内(弱いガバナンス)
特徴:民間人が迫害の対象、または主体になる。小火器の拡散(子ども兵の問題)、多数の難民が発生。
3 弾圧と迫害
軍事独裁、人権弾圧、差別、伝統的な難民の原因
 
 
・隣の家に逃げ込めば保護するという取り決め=難民条約
「いじめられているの」と訴えられたら、その家に送り返さない
 ノン・ルフルマンの原則 - 迫害の恐れがある時には強制送還を禁止
・「なぜきたの?」と尋ねる=難民認定手続き
その際に逃げ込んだ手段は問わない
大勢が一時に逃げ込むときは全員を保護が必要な子どもとみなす
ひとまず物置に入れて衣食住を
もし帰ることがけできないときには、住まわせ、養女にすることも
 
・家を逃げるというのは大変な決断。
そのきっかけは逮捕・投獄の危険、土地収奪、強制徴用、殺人、レイプ、集団処罰、移動制限など「これ以上耐えられない」不安と恐怖の中でしなければいけない決定:
 
・逃げるか?踏みとどまって耐えるか?
・逃げる手段はあるか?いかに(陸路、水路、海路、空路)?
・誰と(一人で、親と、子どもと、誰を残す)?残された者生活費は?
・国内に逃げるか(国内避難民)、外国に逃げるか(難民) ?
・どの国に逃げるか?その国に入国できるか、ビザ、パスポートは?
・いつ難民申請をするか?入国直後か、待つか?
・難民申請を認められるか?収容や強制送還の危険は?
・いかにして生きるか(生活費は、仕事は?言葉は?学校は?)
・自国の難民コミュニティがあるか?支援を期待できるか?
・いつの日か祖国に帰りたいとき、入国できるか?etc
     ↓
「逃げない」意思決定も
多数の人々は逃げない(逃げられない!
→難民問題は『氷山の一角』
 
世界で1000万人も・・緊急事態での人道支援
世界で年間数十万人・・・中期的には第一次受入国で定住、永住、帰化する
 
Ex) 日本ではインドシナ難民の例
タンザニアでのブルンジ民の帰化
→帰化した難民は受け入れ国の開発に寄与できる(ザンビアイニシアティブ)
 
≪質疑応答≫
質問
①NGOの視点からビジネスとともに国際社会への関与はどのようにしているのか?
②難民と環境の関連は?
③日本からアフリカは遠く、コストもかかるが、あえて行く意味は?
④ 環境問題において気候変動で発生する環境難民は起こりうるか?
⑤ 活動を行う上で言語について、英語だけでやっていけるのか?
応答
① 以前はビジネスと一緒にすることは不可能だったが、今はユニクロ・IBM・SONYなどが企業参画し、東京映画祭なども行っている。
② スーダンでは環境問題もあるのだが、securityがしっかりしていないために入国できない。
③ ヨーロッパはやはり植民地政策していたこともあって、中立的立場から援助出来ていない。その分、日本は中立的な立場から援助を行える。
④ 環境難民は起こりうる問題。
 気候変動により農作物が減り、肥えた土地が減少するなどの、生活上支障をきたすことが起きれば、移住する住民が出てきて、そこから土地をめぐる争いが起こりかねない。
⑤ 全部の言葉をマスターするのは不可能。現地の人と自分たちをつないでくれる人と話す英語をマスターしていれば良い。
 
~滝沢 三郎氏のアドバイス~
・イニシアテイブをとること。
・発言する練習をする
・英語の書く力と話す力を勉強して下さい。
・今学生という超特権階級であることを利用して勉強して下さい。
 
 

<人間の安全保障>渡部 真由美氏(元国連職員) 

~戦争って何?~IMGP0498.JPG 
① なぜ人間は戦争をするのか?
② 何で人間はそこまで残酷になれるのか?
 
 
~人間の安全保障~
定義①
・人間の生にとってかけがえのない中枢部分を守り、すべての人の自由と可能性を実現すること、人が生きていく上でなくてはならない基本的自由を擁護し、広範かつ深刻な脅威や状況から人間を守ること。
(人間の安全保障委員会「安全保障の今日的課題」p.11)
・(人間の安全保障委員会「安全保障の今日的課題」p.11)
 
定義②国家の安全保障との補完性、脅威の相互関係からみた定義
 
・人々を直接に脅かす問題を克服するためには、国家が国境と国民を守るという伝統的な「国家の安全保障」の考え方のみでは対応が難しい。
・もちろん「国家の安全保障」の重要性はいささかなりとも減ずるものではないが、それに加え、人間の視点から多様な問題の相互関係をとらえ、これらに包括的に対処する必要がある。これが、「人間の安全保障」である。
(外務省「人間の安全保障」パンフレット)
 
定義③「必要とする側」を土台にすべてを考える「方法論」
人間の安全保障
 ≒ デマンド・サイド・セキュリティ
 ≒ 徹底的な現場主義
・危険にさらされている人々が安全・安心を感じられるためには何が必要かをまず考える。当事者の視点から脅威を見る。
・現場の人々のニーズと要求を土台として、既存の組織や専門性の仕分けに囚われず、必要な支援の方法や形式を考える。
・人々には自らの安全を守る能力が潜在的に備わっていることを前提に考え、人々の自助努力を助ける。
・究極的には、「支援する側のあり方」を現場の要求という視点を土台として定義しなおす。人間を制度に合わせることはできない。制度を人間に合わせることが必要。
→“現場主義”の考え方
 
~人間の安全保障の特質①~
国際社会の「供給側の論理」の逆転的発想
 
・供給側(援助する側)の論理に基づく国際社会の活動では、冷戦終了後にグローバル化する世界の問題に対応できない。→自国だけでは解決不可能な問題が生じている。
Ex)紛争が起こり、難民が流出した際、UNHCR他、教育・環境・衛生など・・・様々な面から援助していかなければいけないのと同じ。
・特に脅威が相互連関する場合、供給側の論理は有効に機能できない。
Ex) ポスト・コンフリクト・ギャップ
 国内避難民(IDPs)問題
 人身取引(国際組織犯罪・性的搾取・麻薬・HIV/AIDS・貧困など多くの問題が複雑に
          絡んでいる)
・人間の安全保障はこうした論理を逆転させようとする。
 
~人間の安全保障の特質②~
secureという心理的側面の考慮
 
・人間の安全保障は単なるBasic Human Needs (BNH)やsafety(身体的安全)を確保しようとする方法論ではない。
・人々が「secure」であるという場合、それは単なる物理的安全だけではなく、過去のトラウマや現在の恐怖、将来に対する大きな不安から解放され、「安心・安寧」を得た状態を意味する。
・人々が将来に対する希望と自らに対する自信を持っているかどうかはその社会の発展に大きな影響を与える。 Empowerment(能力強化)の意味はここにある。
・人間の安全保障はこうした心理的充足までを人間の要求(デマンド)としてとらえ、そこを土台として支援を組み上げていこうとする点で、従来の平和活動・人道支援・開発支援に付加価値を与えるものである。
 
~人間の安全保障の特質③~
→調整(coordination)ではなく 統合(integration)
 
・調整とは
供給側にそれぞれのアジェンダや政策や財源があり、これらがヒッチを起こさないようにつじつまを合わせること。基本的にトップ・ダウンのロジック
・統合とは
現場の需要とニーズを土台として、必要な専門性・人材・財源などを持ち寄ること。基本的にボトム・アップのロジック
 
~「人間の安全保障」の概念~
・保護と能力強化(Protection&Empowerment)
 
・人々の視点から立つ様々な支援の統合化
 ①分野横断性 
 (Multi-sectoral)
 ②機関横断性 
 (Inter-agency)
 
人々の視線に立つことは一番基本であるとわかっているのに、これが再確認されているのはなぜか?
→一番難しいから←支援する側に問題がある
しかし、このように
当たり前のことを言って、再確認することが、「人間の安全保障」の意味である。
 
~translate in an action~国連と「人間の安全保障」
 
・国連の「人間の安全保障基金」:
 1999年3月に日本政府(故小渕首相)の拠出で国連事務局に設立された信託基金。
・その後日本は同基金に対し、現在まで累計で約335億円(約2億9千774万ドル)を拠出。
・2006年までは、国連に設置された信託基金の中で最大規模。
・2008年3月末現在、180件以上のプロジェクトを世界約70カ国で実施。
・2005年よりアフリカ支援の強化と“ONE UN(ひとつの国連)” を現場で実践。
 
プロジェクト例①
「タンザニア北西部における持続的な人間開発を通じた人間安全保障の強化」
・プロジェクト実施機関:
UNDP,UNICEF,WFP,FAO,UNIDO,UNHCR
 
・支援総額:約4億5千万円 (2005年~2008年)
 
・5つの個別目標:
(1)住民の脆弱性の評価、調査および人間の安全保障上  の脅威への対応面での地方政府の能力強化(UNDP)
(2)違法な小型武器の流通による暴力の減少(UNDP)
(3)収穫後の生産作物の損失を減少させることによる貧しい小作農民の食糧不足の改善(WFP,FAO,UNIDO)
(4)教育システムから阻害されている若者に対する補習による基礎教育およびHIV/エイズ啓発教育の提供 (UNICEF)
(5)環境資産の保護、水供給および衛生状態の改善を通じた女性や児童の健康に対する脅威の減少(UNICEF,UNDP,UNHCR)
 
→現地の人が積極的にプロジェクトに参加したことで、国連の意識がそれぞれの“専門的”なものから“一つの傘の下”という意識に変化した。
 
プロジェクト例②
「コンゴ民主共和国イトゥリ地域におけるコミュニティのエンパワーメントと平和構築支援」
・プロジェクト実施機関:
UNDP, UNICEF, FAO, UNHCR
 
・支援総額:約5億2千万円 
 (現在、UN本部にて最終承認段階)
 
・3つの個別目標:
(1)農業分野などでの技術向上トレーニングなどによる生活水準の向上 
- FAO, UNDP, and UNHCR
例)雇用促進事業(マイクロ・クレジットなど)
(2)保健・教育・衛生分野における基本的社会サービスの向上     
 – UNDP, MONUC, and UNICEF
例)初等教育水準の向上、保健所のアップグレード、など
(3)地域コミュニティーの能力強化(エンパワメント)と平和的共生の促進 
– UNDP, MONUC, UNHCR
ex) 紛争により分断されたコミュニティ同士の対話の促進、 帰還民支援
 
→複雑化せずに、最も効果のある、最も有効な機関による計画で実施した。
 
~アフリカと紛争を考えるとき今、私たちにできることは?
→まずは、自分で考えること。
「無関心」との戦い ジム・セキムカナン氏(イラクで死亡した国連職員)の言葉
・・・「男の子であろうと、女の子であろうと、頭がいい子であろうと無かろうと、美しい子であろうと無かろうと、いつも人々の見る目によって異なる基準よりも、僕にはもっと大切なことがある。君が真の美しさを身に付けることだ。物事をいつも正しく感じとる人々が大切にしてきた、あの美しさ、それは人が目で見ることは出来ない。
 
僕は神に祈る。君が平和と喜びの子となるように。人々に、とりわけ最も虐げられた弱い人々に、いたわりとやさしさを持った子となるように。輝くものが全て金ではないことを、すぐに見分けられる子となるように。ラウラと僕は、寛容と、他の人々への敬意と、そして手っ取り早い解決のために暴力に訴えることを拒否することを、君に教えられたらと願う。君が居る所、行く所、暖かさとやさしさを残せるように。君が人々の悲しみを慰め、元気を高めることが出来るように。いつも、君が正しいと信じることに、威厳を持って、勇気を示し、高い大きな声で語れるように。
 
君が逆境にあって、多くの人々が君を非難するとしても、頭を低めてはいけない。君を愛する人々の目を、自分は常に善を求めてきたのだという確信をもって、見つめることが出来るように。そして善を求めるとは、それが誰であれ、他人を愛することなのだ。わが子よ、重要なのは君が幸せなこと。君が楽しくかつ非凡な人生を送ること。君が人を愛するように、君が愛されていると思えること、そしてなにより自由を感じること。」 ・・・
 
1番の敵は「無関心」であり、関心を持つことによって目的意識を持てる。
事実を忘れないでほしい。
 
≪質疑応答≫
質問
① 関心を持とうとしても、苦しみを理解することは難しいが、どうすれば良いか?
② 人類学的視点と人間の安全保障は似ていると思うが、現地の人の視点だけでは機能しない時はどうすれば良いか?
③ 保護する責任において、人間の安全保障と混同してしまうが?
④ 無関心と戦う上で必要なことは?
⑤ 個人的な無関心な人を取り込むにはどうしたら良いか?

応答
① とても個人的なこと。まずは、自分の日本での生活に感謝すること。そして、自分自身の生活に関心を持つ。
関心は累積するものだから、いつかそれが飽和状態になるだろう。
そこで、自分の関心が生む行動に従ってきたことが正解であることに気付く時が来る。
② 心理学、人類学どちらも重要。このようにいらないと思われているものがいる、という場合もある。
Ex)「そうなんじゃないのかなあ」というような
相手に考えさせる空間を作る日本人のコミュニケーションの仕方は評判が良い。
③ 保護する責任の存在により、人間の安全保障が脅かされていると言って軍事介入されたら困る。つまり、人間の安全保障を利用して、軍事介入を正当化されたら、それこそ、人間の安全保障の危機!
Ex)アメリカが人間の安全保障の根拠に軍事介入してきたらという懸念はある。
④ Borderless でいること=global citizen であり続ける
 自国も他国も好きでいること。
⑤ 対話する。
 全然興味がない人と真っ向から話をしても意味ないが、普通の世間話から始めてとりあえず話すことで、関心が生まれることもある。→無関心と戦う決め手でもある。
 
 
<終わりの言葉>鈴木 洋一(模擬国連委員会TICADプロジェクト代表)  
“愛の反対は無関心”というマザーテレサの言葉があります。
アフリカは遠い国だけれども、今回のイベントをきっかけに関心をもって頂けたら幸いです。

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